融資に関連する言葉として、「債務者区分」「信用格付」という言葉をご存知ですか?銀行交渉をうまく行っていくためにも知っておきたい言葉ですが、自分で調べないと誰も教えてくれません。こちらでは岩手県盛岡市の元地方銀行融資担当だった行政書士が、「債務者区分」と「信用格付」について解説します。
【目次】
こちらの記事は
「これから融資を申し込みたい」
「すでに借入があり、融資について詳しくなりたい」
という方向けに作成しています。
それでは見ていきましょう。
1.債務者区分とは
債務者区分とは、債務者(融資を受けている事業者)の財務状況・資金繰り・収益力等をもとに返済能力を判定し、その判定結果によって分類する手法のことです。
債務者区分は下記の5種類に分けられます。
1)正常先
・業績が良好でかつ財務内容に特段問題がない
2)要注意先
・貸出条件に問題がある
・返済の履行状況に問題がある
・業況が良くない
・財務内容に問題がある
のいずれかに該当する
3)破綻懸念先
現状経営破綻はしていないが経営難の状況にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく今後経営破綻に陥る可能性が大きい
4)実質破綻先
法的・形式的に経営破綻はしていないが深刻な経営難にあり、再建の見通しもなく実質的に破綻している
5)破綻先
法的・形式的に経営破綻している
これらの区分は金融庁の「金融審査マニュアル」に基づくものですが、このマニュアルは2019年12月に廃止されています。
この金融審査マニュアルはバブル崩壊後の不良債権管理のために作られたものです。
金融庁は金融機関に対し本マニュアルに基づいた債務者区分の分類と貸倒引当金(※)の設定を求めました。
※貸倒引当金とは 融資先が倒産等により融資を回収できなくなる場合に備え、あらかじめ損失計上する引当金のこと。この増減が株価に影響を与える場合もある。 |
しかし昨今の複雑化する経済・社会環境に馴染まず、またマニュアルに基づき過ぎ金融機関の支援が硬直化していたためです。
現在では各金融機関の裁量に基づき柔軟性のある対応が求められていますが、長年浸透した銀行実務を変更することは簡単なことではありません。
そのため現在でも多くの金融機関ではこの債務者区分の運用を継続し融資実務にあたっているのが現状です。
また、金融庁も金融審査マニュアルに基づいた運用自体を否定しているわけではありません。
2.信用格付とは
金融機関では先述の債務者区分を大分類とし、さらに細かく融資先を分類しています。
それが「信用格付」です。
融資先の事業年度終了後、金融機関の職員は最新の決算書を収集しその内容をもとに格付を行います。
格付は毎事業年度後だけでなく、新規融資実行前に行われる場合もあります。
債務者区分により貸倒引当金を計上し、さらに格付によって融資の方針を決定します。
(金融マニュアル廃止後、貸倒引当金の計上に関しては新しい方法も取り入れられています。事業者の方が詳しく知る必要はありません)。
各金融機関によって格付の種類や記号は異なりますが、下記が債務者区分に応じた格付の例です。
債務者区分 | 信用格付 |
正常先 | S |
A | |
B | |
C | |
D | |
要注意先 | E1 |
要注意先(要管理先) | E2 |
破綻懸念先 | F |
実質破綻先 | G |
破綻先 | H |
私は元々地方銀行に勤めていたのですが、仙台市内の支店から沿岸部の支店へと異動しました。
ご存知の通り東北沿岸部は東日本大震災の影響が大きく、企業経営にも多大な被害を及ぼしています。
先輩から街を案内してもらった際、「あの会社はF」で「あの会社はG」といった会話をしたことが思い出されます。
3.おわりに
金融機関と融資取引を行う場合、最低限この債務者区分・信用格付という制度については理解しておくと良いでしょう。
金融機関の担当者に「当社の格付を教えてください」と聞いたとしても、答えてくれる場合と答えてくれない場合があります。
自社の債務者区分・格付を知ると銀行の貸し出しスタンスが分かり、それらを踏まえた対策や今後の方針を決定することができます。
そのため機会があればぜひ自社の信用格付について聞いてみてはいかがでしょうか。
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