福祉タクシーと介護タクシーの違いをご存知です?混同されがちなサービスですが、それぞれ必要な手続きや求められる要件は異なります。こちらの記事では岩手県での福祉タクシーと介護タクシー開業の流れについて、許認可に詳しい行政書士が解説します。
1.福祉タクシーとは
福祉タクシーと混同されがちなサービスとして、「介護保険タクシー(以下、介護タクシー)」があります。
必要な許認可や資格等がそれぞれ異なりますので、まずは福祉タクシーと介護タクシーの違いについて理解しましょう。
▪︎利用者
福祉タクシー…一般的なタクシーや公共交通手段の利用が単独では困難な方
介護タクシー…要介護認定を受けた方
▪︎料金
福祉タクシー…全額自己負担
介護タクシー…条件を満たせば介護保険が適用可能
※乗降介助部分のみが適用で、移動部分は自費
▪︎必要な許認可
福祉タクシー…訪問介護事業所の指定と一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)
介護タクシー…一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)
図としてまとめると下記のようになります。
2.福祉タクシー開業までの全体の流れ
福祉タクシー開業までの流れは
①二種免許取得
②一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)許可申請
③運賃許可申請
④開始届出書の提出
という順となります。
介護タクシーの場合は、②一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定) 許可申請の前に「介護初任者研修の修了」、「法人設立」、「訪問介護事業所(もしくは居宅介護支援事業所)の指定申請」が加わることとなります。
福祉タクシーは個人事業でも開業できますが、介護タクシーは法人でなければ開業できません。
介護保険事業所の指定を受けるためには法人格が求められるためです。
上記の通り、福祉タクシーも介護タクシーも一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)の許可が必要となります。
そこでここからは一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)の許可要件について確認をしていきます。
3.要件①モノ
1)車両
車両は最低1台から始めることができ、使用できる車両としては「福祉車両」と「セダン型等の一般車両」の2種類あります。
※福祉車両とは…
・車いすもしくはストレッチャーのためのリフト、スロープ、寝台等の特殊な設備を設けた自動車
・回転シートやリフトアップシート等の乗降を容易にするための装置を設けた自動車
2)営業所
営業所は営業区域内にあれば広さに特段の決まりはありません。
机、PC、電話、キャビネット等があり事務作業を行うに足りる広さがあれば十分です。
土地と建物について、岩手運輸支局では3年以上の使用権原があることを求められます。
自己所有、賃貸どちらでも大丈夫です。
3)車庫
原則、営業所に併設している必要があり、車両に応じた十分な収納能力が必要です。
併設できない場合は直線距離で2km以内にあり十分に管理可能なことが求められます。
また営業所同様、3年以上の使用権原が必要です。
4)休憩・仮眠・睡眠施設
他の用途に使用されている部分と明確に分けられている必要があります。
そのほかは車庫同様です。
4.要件②人
次に「人」に着目して要件を確認していきます。
冒頭で触れた福祉タクシーを利用できる方を詳しく見ると、下記の通りです。
・身体障害者手帳の交付を受けている方
・要介護認定を受けている方
・要支援認定を受けている方
・肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害等により、単独での移動が困難かつ単独でのタクシーや公共交通機関の利用が困難な方
・消防機関または消防機関と連携するコールセンターを介し、患者等搬送事業者による搬送サービスの提供を受ける患者
次に運転手ですが、福祉車両の場合には2種免許を持っていれば運転できます。
ただし、努力義務として下記のいずれかを満たすことが求められています。
・ケア輸送サービス従事者研修を修了していること
・福祉タクシー乗務員研修を修了していること
・介護福祉士の資格を有していること
・訪問介護員の資格を有していること
・サービス介助士の資格を有していること
他方、セダン型等一般車両の場合、下記のいずれかを満たしていないと運転は認められません。
・ケア輸送サービス従事者研修を修了していること
・介護福祉士の資格を有していること
・訪問介護員の資格を有していること
・居宅介護従事者の資格を有していること
ケア輸送サービス従事者研修は受講希望者が少なく廃止となっておりますので、今後上記義務を満たすためには「介護職員初任者研修」となります。
5.要件③カネ
3つ目の要件は「カネ」です。
理解しやすくするため、先に岩手県の申請書類を見ていただきたいです。
「所要資金額」と「事業開始当初に要する資金」ついて、車両費や土地費などを指定された計算方法により求めていきます。
例えば車両を毎月50,000円でリースするとこの時、
所要資金額=50,000円×12ヶ月(1年分)=600,000円
事業開始=50,000円×2ヶ月(2ヶ月分)=100,000円
といった具合です。
各項目を計算していくと最後に合計金額が算出できます。
このうち、所要資金額に関してはその合計額の50%超、事業開始当初に要する資金に関してはその100%超を確保していなければいけません。
これらは残高証明書にて証明します。
残高証明書は審査後にも提出が求められるため、申請〜許可交付までの間は上記条件を満たしておく必要があります。
審査後の段階で資金要件を満たしていない場合は不許可となりますので残高管理には注意しましょう。
資金計画の精度が低いと審査段階で指摘が入り、修正後の所要金額が残高を超えてしまう場合もありえます。
精度の高い資金計画が許認可上の最重要ポイントとも言えます。
6.法令試験
申請後、法令試験が行われます。
定期的に行われているものではなく申請があった都度行われます。
岩手県の場合会場は岩手運輸支局ですが、日時は開催約1週間前にハガキにて通知されます。
出題形式は○×問題、選択問題、筆記問題で、下記3つの持ち込みが認められています。
・自動車六法
・運行管理者基礎講習用テキスト 旅客編
・旅客自動車運送事業等通達集旅客自動車運送事業等通達集
不合格時は再試験となり、その間審査はストップします。
受験に関し回数制限はないようですが、その分事業開始が遅くなってしまうので1回で受かることを目標にしましょう。
法令試験に合格しかつ審査が終わり2回目の残高証明書を提出すると許可となります。
7.運賃の許可申請
許可が降りたらすぐ事業を開始できるわけではなく、運賃の許可申請を行います。
福祉タクシーの場合は「ケア運賃」を、介護(保険)タクシーの場合は「ケア運賃」と「介護運賃」を申請します。
ケア運賃は福祉タクシーに関する料金で、自動認可運賃の中から選択します。
事業者側で自由に設定できるわけではありません。
この自動認可運賃は、岩手県の場合、地域によって岩手県A地区とB地区に分けられています。
また介護運賃とは介護タクシーの乗降介助に関する料金であり自由に設定できますが、自動認可運賃より安く設定する必要があります。
運賃の許可が降りたら車両の表示や事務所の整備等を行い、ついに事業を開始することができます。
8.運輸開始届出書
事業開始後、開始届を提出します。
提出期限は許可を受けてから1年以内です(岩手県の場合)。
この書類を提出しないと、運輸局側では事業者がいつ事業開始をしたことが分からないためです。
9.おわりに
ここまで一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)の流れ・要件について解説をしました。
高齢化は今後も継続し福祉タクシーと介護(保険)タクシーの需要は増えていくと想定されます。
ご自身の所有する資格や協力者から福祉タクシーとして事業を行うのか、それとも介護タクシーとして事業を行うのか判断していくことになります。
申請方法や要件が分からない場合には、当事務所やお近くの行政書士にご相談されることをオススメいたします。
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